コラム COLUMN
令和3年度 専門人材育成研修【舞台芸術系】第4回レポート
2021年11月24日、舞台芸術系プロデューサーを育成する研修が、横浜にぎわい座小ホール(のげシャーレ)で実施された。対象は、横浜市芸術文化振興財団が運営する舞台芸術系施設や部署に勤務する職員。令和3年度は「企画立案力を高める」をテーマに4回にわたって実施され、今回はその最終回=第4回目であった。
プロデューサー4名と将来的に舞台芸術系プロデューサーを目指す職員12名が参加した。職員の所属は、横浜みなとみらいホール、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜にぎわい座、横浜能楽堂、協働推進グループ、横浜アーツフェスティバル実行委員会の6つの施設や部署。ふだんはそれぞれの施設や事業での業務に専心しているので、このような研修はほかの施設の事業担当者と交流できる場にもなっている。
研修第4回目は、3部構成で行われた。
第1部では、講師である横浜にぎわい座・布目(ぬのめ)館長から事前に提示された課題レポートへのフィードバックとディスカッションが実施された。課題は 2021年9月に横浜にぎわい座で開催された主催公演「神奈川を旅する落語会」を鑑賞し、評価と改善のレポートを提出するというもの。
課題レポートに対する評価について布目館長からは、「たいへんに参考になる意見が多数寄せられた。指摘を受けて、広報の手法の見直しも考えた。次回の観客誘致に繋げたいため、『後追い』広報として、演目の舞台となった場所などを横浜にぎわい座のホームページ(HP)で紹介することを考えている。HPでの広報は落語ファンの高齢層にも好評の感触を得た。同時に落語になじみのない人にも興味を持ってもらうための手段になるだろう」と報告がされた。
そのレポートに基づき、布目館長が参加者を「ステークホルダー(※)との関係性に言及」した5人、「公演内容に言及」した5人、「観客の高齢化への対策や広報手段に言及」した6人、というA・B・Cの3つにグループ分けした。
※ステークホルダー;活動によって影響を受ける関係者
また、布目館長より、3回の課題レポートの内容が次の企画を具体的に考えることにも役立ったとのことで、「野毛(※)名物ゆかりの落語会」企画が紹介された。そして、グループディスカッションのテーマとして、「この企画をどう進め、どう広報するのがよいかを考える」も提示された。
※横浜にぎわい座のある桜木町駅、日ノ出町駅周辺の飲食店の連なる地域
30分間のディスカッションでは各グループ内で活発な意見が交わされ、その結果を各グループの代表が発表した。
「ステークホルダー」に着目したAグループからは、「野毛の客層の分析をして、横浜にぎわい座と対極のイメージとして、みなとみらいの街が挙がり、両者の違いを検討しました。企業が新しいステークホルダーになり得るのでは」と発表があった。
「公演内容」に着目したBグループからは、「落語の楽しみ方を知らない初心者のために『座学』で基礎を学ぶ機会を作っては?同じテーマでも『初心新者編』『上級者編』にわけて実施するのはどうか?古典落語は敷居が高いので、『新作落語の夕べ』はどうか?」といった提案がなされた。
「客層高齢化・広報」に着目したCグループは、「若い観客開拓に向けての広報として、SNSなどで演者の自己紹介、落語の豆知識、野毛の街の紹介などを発信してはどうか?また、チラシにあらすじやマップなどを載せてはどうか?親子層にアクセスするために野毛動物園との連携や小学校へのアウトリーチを行っては?」と提案した。
これらの発表に対しては、布目館長から「落語会のチラシへのあらすじ掲載はタブーとされているが、それを破る発想は大事なこと」との評価や、「活発なディスカッションは意義が大きいので今後も研修を実施していきたい」との提案で第 1部は締め括られた。
第2部は、広報・ACYグループ 杉崎チームリーダーが講師として登壇し、「事業評価の思考と実践について」30分間の講義が行われた。
アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)は、「芸術文化と社会を横断的に繋いでいくための中間支援」プログラム。ACYの各事業を長期にわたり実施し、運営してきた杉崎さんの経験から導き出された事業評価の思考法が、数多くのパネルやグラフを使って視覚化され説明された。
特に、ACYの事業のひとつである助成制度の実施運営には事業評価が欠かせないという。それは、「支援している作家やプロジェクトの良い部分を引き出し、成長を促したい。それを社会に伝えたい」というACYの担う役割の実現のためだという。事業評価とはすなわち自己評価であり、そのための手段としての調査・ヒアリング・アンケートの実施法やその分析と活用法が次々に示された。
杉崎さんの示した明確なビジョンの持ち方と実践法の数々は、芸術支援に関わる全職員にとって刺激となったはずだ。最後に「大切なこと」として強調したのは以下の心得だ;
・問う力(仮説を立てる力)を磨く
・まずはやってみる (実験→検証→モデル化を意識する。最後は仮説に対して一旦は何かしらの答えを出す)
・現場ではHOWが大事 (「ステークホルダーへアンケートなどを行う」、「それを発表する」などを実施する上での手法、見せ方は様々な現場で共有できる)
・ハンズオン(自らが関わる)しながら、チームづくりを行う
・芸術活動と企業や行政が組む上では、共通の指針が連携の手がかりになる。―文化芸術施設という場の持つ強みを活かす
「なぜ自分がこの仕事をしているのか。『芸術のため』であることを忘れないでほしい」と杉崎さんは結んだ。
第2部の総括として、横浜赤レンガ倉庫1号館 小野館長からは、「今年度のテーマである『企画立案力を高める』の観点からもACYの実例は役に立ったのではないか。『アーティストと社会との関係』を『見える化』してもらったことで自身の役割や行動プランが明確になるのではないか。各自が『問いを立てる力を持つ』ことは大事なことです」と呼びかけた。
第3部は、横浜能楽堂 菅原支配人がモデレーターとして入り、次年度の研修への課題抽出をディスカッションして、専門人材育成研修第4回は終了した。
来年度(令和4年度)にも専門人材育成研修(舞台芸術系)は実施される。
取材・文 猪上杉子
写真 大野隆介